7つの視点から分類した業務改善の取組
介護サービス事業所における生産性向上に取り組む意義は、人材育成とチームケアの向上、そして情報共有の効率化です。介護サービスにおける生産性を高める方法として、業務改善の視点があります。具体的には、日常業務の中にあるムリ・ムダ・ムラを見つけ解消していく一連の取組です。業務改善の視点から取り組む生産性向上の取組は7つに分類することができます。
1.職場環境の整備
概要
職場の環境を整えることは、安全な介護を提供する環境づくりの基礎となります。5Sの視点に基づいた安全な職場環境は、安全な介護サービスを提供するための最も重要な前提条件です。
5Sの環境が整ってない職場では、職員がもの・用具を探す時間によって、利用者がサービスを受ける時間が冗長に長くなったり、サービスが提供されるまでの待ち時間が長くなったりするなど、利用者にとって不安になる要素が多く存在します。
取組によって得られる効果
- 5Sの視点での安全な介護環境と働きやすい職場をつくる。
- 必要なものがすぐに取り出すことができ、常に作業に取りかかることのできる状態を維持する。
2.業務の明確化と役割分担 (1)業務全体の流れを再構築
概要
業務分担を見直す時には、1日の業務全体の流れを時間に沿って書き出し、それぞれの業務時間を「集約させる」、「分散させる」、「削る」といった3つの視点で見直すことで、一気に業務が効率的に回り出します。
一度業務全体の流れを見直したら、その流れを守りながら仕事を進めることで、業務一つひとつの時間が延長することなく、後ろ倒しになった業務の残業時間を減らすことができるのです。
また、業務全体の流れを決める際に重要なポイントは、業務毎に範囲とポジションを決め、そこでの役割と手順を明確にすることが大前提となります
取組によって得られる効果
- 業務の明確化と役割分担の見直しにより、ムリ・ムダ・ムラ(3M)を削減して業務全体の流れを再構築する。
2.業務の明確化と役割分担 (2)テクノロジーの活用
概要
職員の身体的負担や精神的負担の軽減のために、介護ロボットなどのテクノロジーを用いることで、介護現場にゆとりの時間を生み、利用者と介護者の触れ合う時間や利用者の安心感を増やす効果があります。
テクノロジーの導入前にはできる限り実機での検証を実施し、使用や操作方法に慣れるとともに、使用する利用者について使用感に問題がないか確認しましょう。また、導入しやすい時間帯や場所を決め小さく始めることがコツです。まずは、小さな改善事例を作ってみましょう。
取組によって得られる効果
- テクノロジーなどの活用により、職員の業務を見直し、身体的・心理的負担を軽減する。
3.手順書の作成
概要
手順書作りでのポイントは、職員の経験値を見える化することです。業務のやり方が人によって異なると、その質や作業時間にも差が出てしまいます。サービス内容にムラが生じると利用者も当惑する他、満足度にも影響します。
手順書を作成する目的は決して画一的なサービスを提供するためではありません。むしろ、一定の質を担保した上で個別ケアに柔軟対応できるために、熟練度を上げるためのトレーニングツールに位置付けられます。トレーニングによって職員の質の底上げ・均質化ができれば業務負担の分散ができ、業務の偏りを減らしチームワークも向上します。
手順書作りでのポイントは、職員の経験値を見える化することです。業務のやり方が人によって異なると、その質や作業時間にも差が出てしまいます。サービス内容にムラが生じると利用者も当惑する他、満足度にも影響します。
手順書には業務がきちんとできているかどうかの目安となる判断の基準を明確に記載しましょう。例えば、写真や絵も交えた手順フロー図の作成があります。文字だけで書かれた手順書は理解しづらく、読むのに時間がかかります。そこで、一目見ただけで分かるフロー図が有効的です。
取組によって得られる効果
- 職員の経験値、知識を可視化し、サービスレベルを底上げする。
- 職員全体の熟練度を向上し、個別ケアに柔軟に対応する。
4.記録・報告様式の工夫
概要
介護記録等、報告書の様式を工夫することで、利用者の経時的変化や、職員のケアの偏りや癖が見えてくるようになります。そのためには、施設内にいる利用者に関するデータ等を上手く活用することが大切です。
目標設定と達成状況を記載するなど、各職員の達成力を高める工夫をしましょう。例えば、目標達成状況は、「達成、ほぼ達成、未達成」の3段階で確認すると分かりやすいでしょう。
もし、現在既に何らかの様式がある場合には、それが使いやすいか、見やすいかをもう一度検討してみましょう。例えば、様式の内容は変えなくても、様式の向きを変更するだけで「とても見やすくなった」、「時系列で比較しやすくなった」という事例もあります。
取組によって得られる効果
- 項目の見直しやレイアウトの工夫等により、情報の読み解きを容易にする。
- 不要な文書や整理できる項目を見つけるだけでなく、「なぜ文書を作成しているのか」といった本来の目的に気づくことができる。
5.情報共有の工夫
概要
情報共有の手段としてICT機器は非常に有効です。特に手による各帳票への転記作業は、ICT機器を活用することで、楽になります。また、タブレット端末等を使うことで、施設外の会議や訪問先からでもデータを簡単に入力できるようになります。介護記録、情報共有、請求事務が一気通貫となったソフトの導入が最も効率的なものとなります。
データ入力を行う際には、入力を定型化する・チェックボックス式とすることや音声入力などによって、さらに入力時間の手間を省くことができます。また、画像、動画の活用をすることで、視覚的データの保存や共有も可能となります。
パソコンやタブレット端末以外にも、インカム(トランシーバー)の活用も有効的でしょう。インカムを通じて、その場で状況を時間差が生じることなく全員がシェアできるため、申し送りや指示出しの時間を短縮できることが大きなメリットです。
取組によって得られる効果
- ICT機器を用いて転記作業の削減、一斉同時配信による報告申し送りの効率化、情報共有のタイムラグを解消する。
6.OJTの仕組みづくり
概要
介護サービスにおける人材教育の手法の一つとしてOJT(On the Job Training)は非常に重要です。OJTは研修会や勉強会では習得することが難しい実践力を身に付けることができます。また、OJTは新人教育の場面でのみ活用される手法ではなく、ベテラン職員、マネジメント層等の人材育成においても幅広く活用できます。
指導する立場となる職員に対しては、「他職員に対して教える」ということを教育することがとても大切です。教育担当の職員の教え方にブレが生じてしまっては、施設全体で業務の手順やケアの質を一定に保つことが難しくなってしまいます。そこで、教える内容にムラが出ない、ブレがないように、教育担当の職員に対してもOJTの標準的な手順を決めましょう。指導手順が属人的にならないよう、標準的な手順に乗っ
取って指導することが肝となります。
教える技術は、相手の能力・知識、意欲、性格等によって様々です。画一的に伝えるのではなく、相手に合わせ柔軟に対応しましょう
取組によって得られる効果
- 専門性を高め、リーダーを育成するため、教育内容の統一と教え方のトレーニングを実施する、教える仕組みをつくる
7.理念・行動指針の徹底
概要
業務の手順書やマニュアルを作成しても、そこに記載されていないイレギュラーな事態が起こることも、日々の介護現場ではよくあることです。このようなイレギュラーな事態への対応や優先順位は、法人の理念・行動指針に立ち戻って考えることが重要です。
普段から理念・行動指針を全職員に伝え、徹底しておくことで、均質化したサービス提供が行われるとともに、不測の事態にも職員は焦ることなく、それらに即した判断や行動ができるようになります。
取組によって得られる効果
- 組織の理念や行動指針に基づいて、自律的な行動がとれる職員を育成する。